君が教えてくれた事
仕事の時間を迎えて、俺達はそれぞれの持ち場につく。
俺は今日も汚れた皿をひらすら洗う。
「あ〜ゆたっ!」
仕事の合間に、リカはニコニコ笑って俺に近づいてくる。
「何だよ?サボってないで働けよ!」
俺がそう言うと、リカはぷぅと頬を膨らませて、
「歩太、大好き!」
俺の耳元にそう言い残して、洗い場を出ていく。
一気に顔が熱くなって、自然と顔の筋肉が緩む。
「宝来っ、お前あんま見せつけんなよっ!ちっとは、傷心の俺の事も気遣えよ?」
野上が呆れた様に、洗いあがった皿を、食器洗い機から出しながら、俺を横目で睨む。
「完璧に負けてるよ。俺、リカちゃんがあんな顔するなんて、知らなかった。お前、めちゃくちゃ惚れられてんじゃん。くそっ何で、お前なんだよっ!絶対、俺の方がいいに決まってんじゃんっ!!」
ブツブツと文句を言いながらも、野上は俺に笑顔を見せている。
俺には理解できない。
もしリカが、自分じゃなく、野上を選んでいたら、俺はこんな風には笑えない。
まぁもともと俺は笑わないけど・・・。
「リカの事、諦めろよ?」
「さぁ〜、どうしようかな?」
そんな会話をする事すら、俺自身が驚くくらいだ。
.