君が教えてくれた事



仕事を終えて、着替えを済ませてバックルームを出ようとすると、リカが入って来た。



「歩太、もう帰る?すぐ着替えてくるから、ちょっと待っててね!」



俺の腕を引いて、椅子に座らせると、リカは更衣室に入って行った。





付き合うって言っても、俺はどうすればいいかは分からない。



普通は一緒に帰ったりするもんなのかな?




そんな事を考えていると、着替えを済ませたリカが更衣室から出て来た。



バックルームを二人で出ると、閉店後の客席で、座って話をしている、従業員達が不思議そうに俺達を見ていた。



野上以外は、俺達が付き合っている事を知らない。



知っているのは、前半で上がった沢村くらいだろう。



「リカちゃん、今日は早いじゃん?宝来と一緒に帰るの?」


明らかに探りを入れる様な質問に、



「うんっ!歩太と一緒に帰るっ!」



リカは笑って答えている。




俺は黙ったまま店を出た。



「歩太、待って!」


リカはすぐに俺の後について店を出て来た。



そして、少し不安そうな顔をして、



「私は、歩太の彼女だよね?私の勘違いなんかじゃないよね?」



そう聞いてきた。



「・・・ああ。」



俺が答えると、リカは安心した様に笑った。



リカの笑顔を見ると、俺はいつも温かい気持ちになる。



泣き出してしまいそうな、感動する様な不思議な気持ちになるんだ。



これは、いったいどういう言葉で表したらいいんだろう?



俺には、まだ分からない。




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