君が教えてくれた事
リカはビールのつぎ方や、たくさんあるリキュールの名前、グラスの使い分けなんかを、ひとつひとつ丁寧に説明してくれた。
オーダーが入ると、
「歩太、これ作ってみよっか?」
そう言われて、作り方の書かれたマニュアルを見ながら作る俺の横で、心配そうに見ている。
なんとか作り上げて、リカを見て確認すると、リカは子供を褒める様に俺の頭をクシャクシャと撫でる。
店が混み出すと、有り得ない位の勢いで、オーダーが入ってくる。
こうなると俺は全くもって使い物にならない。
リカは慣れた手つきで、次々とドリンクを作り上げていく。
もちろん、作り方のマニュアルなんて、いっさい見ない。
俺はそんなリカを、ただ尊敬する様に見つめていた。
「リカ、すごいね。」
俺がそう言うと、
「歩太もすぐ出来る様になるよっ!」
そう笑顔で言ってくれた。
「リカっごめんっ!この伝票分、すぐ作り直してっ!」
トレーに慣れない新人の子がよくやると言う失敗で、たくさんのドリンクをひっくり返したと、作り直しを要求されても、
「了〜解!」
リカはイライラする事なく、笑顔で答える。
そして、失敗をして落ち込む子に、
「私もよくやったよ〜!今でもたまにするしねっ!」
そう言って声をかける。
その子は、リカのその言葉をキッカケに泣き出した。
「圭太、雅美ちゃん休憩させてあげてくれる?」
「えっ!?今、超ーピークだよ?」
自分の仕事に手一杯で、みんながイライラしている中、リカだけは冷静で、笑顔を絶やさない。
「雅美ちゃん、ちょっと裏で休憩しておいで?落ち着いたら、戻っておいでね!」
そう優しく声をかけるんだ。
その間にも、次々にオーダーは入ってくる。
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