叶えたい花。

「わーってるって!ただの幼なじみくんがいるもんなぁ?」

「…、嫌みですか?」

 と、私が言うと、

「何のことだか~」

 と、甲斐先輩はわざとらしくはぐらかす。

「あの」

 と、私が言い掛けると、甲斐先輩は急に振り返って腕を回し、顔を近づけ、こう言ってきた。

「そいつじゃなきゃダメなのかよ」

「えっ…?」

「そいつじゃなきゃダメなのかよ?」

 そんなことを言われて戸惑う私に、甲斐先輩は人が変わったようにこう続けた。

「俺じゃダメなのかって言ってんだよ、そいつの代わり」

 吸い込まれそうなそのまっすぐな甲斐先輩の目は、私を捕らえたまま離してはくれなかった。

「なーんてな。今日はもう帰ろうぜ?送ってってやっからよ」

 と、甲斐先輩はまた態度を変えた。私は、

「もう少しだけ…」

 と、陽輝が来てくれるのをまだ期待していた。でも甲斐先輩は、

「無理だ、時間切れ。来い!」

 と、私の手を引いて家路に着くのだった。でも私は、甲斐先輩のことより、陽輝に謝らなきゃという気持ちで頭がいっぱいだった。

(陽輝…)
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