叶えたい花。

「…陽輝くんに免じて、今回だけ見逃してやる。今回だけだからな…」

 私を見た後、そんな捨てせりふのような事を呟いて片桐さんは行ってしまった。

「たく…、どいつもこいつも…」

 何かに呆れている甲斐先輩に、私は

「なんかすいません、ありがとうございました」

 と、片桐さんのことについて謝罪とお礼をしてみた。特に深い意味はない。

「ほんとだぜ。勘弁してくれよ」

 と、困ったような、でも意地悪な笑みを甲斐先輩は浮かべていた。
 でも、9時を過ぎても私が補導されなかったのは陽輝のおかげだったんだと初めて知った。私が自由にこの田舎町を動けるのは、すべて陽輝のおかげだったんだ。
 それがわかった瞬間、すごく申し訳なくなってしまった。

「おい」

「はい?」

 甲斐先輩は、また何かを言いかけた。でも、

「別に」

 と、また話すのをやめてしまった。私は、そんな甲斐先輩の態度に少し寂しくなった。
 それがなんでなのかは私にもよくわからない。でも、寂しくなったんだ。

「甲斐先輩…」

 私が、思わずそう言っても、甲斐先輩は、

「あ?」

 と振り向かずに答えるだけだった。でも、私はこう続けた。
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