空のギター
「ふーっ、やっぱ生徒指導の上様は怖ぇな!」

「上様?あぁ、“上村(うえむら)”だから上様ね。良いネーミング!」



 風巳と友人はクスクス笑い合い、荷物を始める。上様に突き止められる前にさっさと帰ってしまおうという魂胆だ。てきぱきと鞄に教科書類を詰め込み、部活で使ったTシャツとジャージのままコソコソと教室を後にする。運良く先生に見つからずに校外に出た二人は、小さくガッツポーズを取った。



「アイドルが廊下走っちゃいけないんだぞーっ。」

「お前だって走ったクセに何言ってんだよ!」

「僕はアイドルじゃなくてただの一般人ね。よっしゃ!上様も撒いたことだし、コンビニ寄って帰ろうぜ!!」

「調子良いなぁお前は……ま、良いや。行こっか?」



 二人は近くのコンビニへ向かって談笑しながら歩いて行く。部活帰りの疲れた高校生にとって、買い食いは日常茶飯事なのだ。



「そういえば、来週一週間は学校来ないんだっけ?」

「うん、父さんと母さんに会いに行くんだ。母さんの見舞い行ってQuintetのCD聴かしてやんなきゃ!」



 キラリと光った風巳の目。それはまるで、太陽に反射したビー玉のようだった。
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