空のギター
 ──それから数日後、小さめのボストンバッグを持った一人の少年が福岡空港に降り立った。彼は迎えに来てくれた父親に大きく手を振り、すぐ様駆け寄る。久し振り、元気だったか、などと言葉を交わし、二人は再会を喜びながら空港の駐車場へと歩いていった。



「お前が東京行ってからもう三ヶ月かぁ……一人暮らしは慣れたんか?」

「当たり前っちゃ!俺は家庭的な息子やけんな。」



 踏む地面が妙に心地よく、風も空も草木も、街中の看板も何もかもが懐かしい。風巳は自然と方言を喋る自分に戻っていた。

 父の車に乗るのでさえ久々だ。“言葉に出来ない気持ち”というものが本当にあるんだと、風巳は改めて納得させられた。



「そういえば父さん、前から思っとったけどやっぱり関西弁と混ざっとーよなぁ。」

「そやそや。18まで大阪に居ったんやで。」

「へぇー……初耳や。この前聞いたんやけどな、俺らのマネージャーさん高知出身やげな、母さんと一緒やね。」

「ホンマか!じゃあ『ざまに』とか言うんか?」

「何それ?聞いたことない……」



 車内は温かい空気で満ちていた。ちなみに“ざまに”とは、“凄く”という意味である。
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