空のギター
「あのなぁ、昔面白い話聞いたんや。高知には土佐弁と幡多(はた)弁があってなぁ、夏海が喋りよるんは幡多弁なんやと。
夏海の分析では『土佐弁は攻撃的やけど勢いがあって自信持っちょるイメージで、幡多弁はマイナーやけど何かあったかい』らしいでー。」

「へぇー……知らんかった。全部一緒かと思っとった!」



 風巳は興味を惹かれ、思わず運転席に身を乗り出す。父親の視線でシートベルトに抵抗している自分に気付き、「あっ」と声を上げて大人しく座り直した。父・修平が小さく笑う。風巳は苦笑した後、「それから?」と続きを促した。



「お前のマネージャーさん、土佐弁なんやないか?『へんしも』とか言わん?」

「あ!言う言う!!電話で話しとったの聞いた!!娘さんに『へんしもせんか!』って言うとった!」

「あれ、“はよせぇ”って意味なんやって。世の中まだまだ謎だらけやなぁ……」



 方言談義に花を咲かせながら、彼らが乗った車はとある大きな病院の門をくぐった。久し振りに見る光景に、風巳はぼんやりと辺りを眺めている。駐車場の整備員に軽く会釈をして車を長方形のスペースに停め、二人は院内へと足を進めた。
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