空のギター

涙の向こうへ

 7月27日。この日は雪那にとって、忘れられない大切な日だ。去年の今頃もあの日の夢を見た。雪那の心の中にはまだ、“彼女”の存在が根強く残っているのである。そういえば、二年前の今日もうだるような暑さだった。早朝に耳奥で忌まわしい急ブレーキ音を聞いた雪那は、目覚めてからそう思った。



「頭いったー……」



 金槌で殴られているように痛む。“彼女に依存している自分”から全く抜け出せてない今の自分に苦笑を洩らし、雪那はベッドから起き上がった。

 雪那は現在、S.S.Gが用意してくれたマンションの一室に住んでいる。仕事がある日は神奈川からこちらへやってきて、それが終わるとすぐに実家に帰って学校に通うというハードな日々を繰り返しているのだが、隣の部屋に住む頼星の存在がとても心強かった。彼とは知り合ってもう八年。気が置けない上に、信頼し合っている関係なのだ。

 春が来れば中学を卒業し、上京出来る。今の暮らしは確かに大変だが、メンバーや学校の友達と過ごす時間はかけがえのないものだ。そして、自分達を支えてくれる大切なファンが居る。そう思えば、例え大嫌いな数学100問テストを出されたとしても頑張れる気がした。
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