空のギター
「じゃあ、次の曲にいきますね。雪那、ランダム再生よろしく!」



 沙雪の言葉に頷き、雪那は「次は何かなー?」と言いながら、楽しげにボタンを押す。そんな彼女は流れてきたイントロに「げっ」と不機嫌そうな声を上げた。

 優しく頭を撫でてくれるようなピアノの旋律。ギターの音は一切入っていないようだ。クスリと笑う沙雪と、首を捻る客達。なかなか答えが出ないので、観念したように雪那が叫んだ。



「あーもう!よりによって新曲じゃん新曲!!
……正直に言いますね。これ、私の作詞です。」

「どうやら好きな人を思って書いたみたいですねぇ。恥ずかしいなら録音させなきゃ良かったのに。」

「お姉ちゃんが『曲録るだけだから、今日のライブには持っていかないよ』って言ったんじゃん!この嘘つき!!」

「はいはい。Aメロ始まるから、大人しく歌おうね。皆さんも聴きたいですよねー?」



 してやったり、という顔の沙雪に尋ねられ、お客さん達が歓声混じりに拍手する。狼狽する雪那だが、無情にもイントロ部分の終わりが来てしまった。呆れたように嘆息する雪那。覚悟を決めたように息を吸い、その歌にふさわしい透明な声を路上に響かせた。
< 161 / 368 >

この作品をシェア

pagetop