空のギター

　買い物に出かければ、すれ違い様に悪口を囁かれる。夫が世話になっていた上司や同僚へ挨拶に行けば、暴言を吐かれ追い返される。身も心も限界だった。本当に、消えてしまおうと思っていた。

　そんな彼女に温かい手が差し伸べられたのは、遥介の死から数週間後。彼女が受けている嫌がらせの数々を遥介の友人から聞き付けた彼の母親が、瞳の元を訪れたのだ。遥介の葬儀で会った時、「あなたのせいじゃないのよ。自分を責めないで」と唯一優しい言葉をかけてくれた人。そんな存在を、瞳はすっかりと忘れていたのだ。

　遥介の母は、瞳と同じように夫に先立たれていた。自分も同じ立場に居るから、瞳の気持ちが痛い程よく分かる。彼女はそう語ってくれた。それから毎日のように、彼女は瞳の元へ通った。遂には自分が住んでいた家を売り払い、一緒に住もうと提案してくれたのだ。



「お義母さん、とっても優しくて……『あなたがしっかりしなくてどうするの。もうすぐ母親になるのよ？“この子”はあなたと遥介の大切な宝物でしょう。私も手助けするから、頑張って産んで育てましょう？』って……」



　嬉しい言葉をもらった一週間後。瞳は無事に出産を終えた。