空のギター
 雪那のギターが生きる命を思わせるような、切なくも力強いメロディーを奏でる。まだしっかりとした詞もタイトルもない歌。そんな歌を、客達は耳を澄ませて楽しんでいた。

 演奏が終わると、惜しみない拍手が雪那に贈られた。ベビーカーの中の女の子も、小さなその両手をパチパチと叩いてくれている。雪那は彼女に駆け寄ってしゃがみ、目線を合わせて「ありがとう」と笑った。

 小さな小さな路上ライブが終わった後、雪那と沙雪はオレンジ色に染まった歩道を仲良く並んで帰る。今日の反省点や良かった点を話しながら、二人は家までの道のりを歩いていた。横断歩道を渡り終え、家まであと五分という頃。沙雪が不意に呟いた。



「……瞳さんの話、凄く感動しちゃったね。みんなまた来てくれるって言ってたし、これからもライブ頑張ろうね!」

「うん!いつか自信が付いたら、オーディション受けに行こうね!!」



 沙雪が頷いた、その時だった。背後から、謎のけたたましい音。雪那が振り返ろうとした、まさにその直後。

 ──ドスン、と何かが何かにぶつかった音。次いで飛ばされた何かがバタリと倒れる音がした。振り返った先には、何もない。
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