空のギター
「……瞳さん!!」



 携帯をポケットにしまい、彼女に向かって走り出す。人目を気にする暇などなかった。“生きる”という大切なことを教えてくれた彼女に、心の何処かでずっとお礼が言いたかったのだから。

 会いたかったのは、どうやら瞳も同じだったようだ。自らの目を何度も擦り、夢から覚めたばかりのような顔をしている。



「……本当に、雪那ちゃんなの?」

「はい!二年前まで、ここで女の子デュオで路上ライブしてた雪那です!!」

「本当に本当に雪那ちゃんなのよね……?会えて良かった!!」



 涙を流しながら、瞳は何度も何度も「夢みたい!」と呟く。その腕の中では「ママ、よかったねぇ」と、彼女の愛娘が微笑んでいる。見れば見る程似ている二人だが、遥の笑顔には少し違った面影もある。彼女の父親も、もしかしたらこんな風に笑ったのかもしれない。



「沙雪ちゃんのこと、二人のお母様に聞いたの。ずっと音楽から離れていたって聞いたから、まさかここで会えるなんて……」



 雪那自身、“まさか”と思っていた。瞳と再会したことも、自分が再び音楽を志したことも。音楽は自分を導いてくれる。そんな確信が、更に強まった。
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