空のギター
「お姉ちゃん、私に“一人でも胸張って生きろ”って、伝えてくれたんじゃないかなぁって。考えてみたら、いつもお姉ちゃんに甘えてばっかりだった。
“甘える”と“頼る”って違うよね?頼るっていうとさ、“自分も相手に頼られるだけの人間にならなきゃいけない”って気がして。だって、一方通行じゃ悲しいでしょ?相手に何かしてもらったら、自分も返さなきゃ!」



 ニコリと笑うその表情は、悲しみと苦しみを経験したからこそ表れたもの。もう“ここ”には居ない沙雪に何かを返す方法はないのかもしれない。だが、一つだけあったのだ。少なくとも、雪那には。

 休ませたばかりのギターを起こし、雪那は準備を整える。短くしてしまってから少しだけ伸びた髪を後ろで一まとめにし、コバルトブルーのピックを掴んだ。



「あの時瞳さんが言ってくれたことも、忘れるとこだったよ。お姉ちゃんの分まで、私は生きなきゃいけないんだよね?
……ううん、絶対生きる。みんなに伝えたいこと、まだいっぱいあるもん!」



 ストラップを肩にかけ、ピックを構える。14歳のギタリストは、どんなに強いボクサーよりも迷いがない。夕暮れの雑踏の中。一人の歌うたいが、その思いを叫ぶ。
< 179 / 368 >

この作品をシェア

pagetop