空のギター
「……俺……」

「やめろ!!」



 大きなその声に誰もが驚いた。普段物静かな頼星が突然叫んだのだ。長年の付き合いがある雪那までもが、彼の行動に息を呑む。言いかけた言葉は吹っ飛んで行った。

 睨むようにして雪那を見ている頼星。彼の思いやりからの行動だということは十二分に分かる。雪那は思わず、彼の名前を呟いていた。



「頼星……」

「やめろよ。言ったら俺、許さねぇから。」



 沙雪との約束と言えど、デビューは雪那が望んでいたことだ。やっと叶った夢を簡単に消させる訳にはいかない。頼星のそんな気持ちが表れた言葉だ。すると雪那は、何を思ったか自嘲するような顔でフッと笑った。高藤と硝子を除く四人が唖然とする中、雪那は思いを口にする。



「……もう、良いんだ。」

「え?」

「最初から覚悟は出来てたんだ、こうなるってこと。自分でも、みんなを騙してることがいつも気になってた。
……だから、良いんだよ。今ならきっと、罪悪感とか後悔も少なくて済むだろうし。」



 正義感の強い雪那らしい台詞だな、と頼星は思ったのかもしれない。“本当にお前は……”と言いたげな顔で、その悲しげな微笑を見つめている。
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