空のギター
 ──赤・青・黄・緑・紫といった色とりどりのライトが、五人を包んでいる。Kouyaのドラムスティックがパフォーマンス開始の合図。ギター・エレキ・ベース・キーボードが、ドラムの指揮によって音色を奏で始めた。

 二つのスタンドマイクの側にはSetsunaとKazami。小柄な方のボーカルが、後ろの演奏者達をチラリと振り返る。“行くよ!”という掛け声の代わりだろうか。もう一人のボーカルとも目を合わせ、彼は大きく息を吸った。





空に向かって手を伸ばしたら
掴めそうな月 ひとつ
いつかはこんな景色さえ
忘れていってしまうのかな?





 曲名にふさわしい、迷いのない透明な声が、人々の耳を突き抜けていく。Setsunaは相棒を指で操りながら、Kazamiに次のパートを託した。





空に向かって思いを馳せたら
掴めやしない心がひとつ
思いはいつか人混みへ
消されて薄れてしまうのかな?





 低く空気を震わせる声は、もう一人のボーカルに負けない存在感を主張する。やがて二つの声が重なって、サビ部分を歌い上げる。





届かなくても 手を伸ばし
「諦めない」と歌い続ける
この手の先に 触れた光が
微かに灯る そんな月夜に
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