空のギター
 自分は、すぐにはこれまで通りの生活が出来そうにないと暗示する風巳。隣に座る光夜が、そっと彼の肩を叩く。“ゆっくりで良いんだよ”と、そう言っているかのように。風巳は頷くと、紘に順番を託した。



「……僕も、暫くは何も手に付かないんじゃないかなって思います。だけど、ピアノは弾き続けます。いつかコンクールにも出ようと思ってるんで……雪那には、空の上から見守ってて欲しいですね。」



 雪那と卒業ライブで共演したことが、まだ記憶に新しい。しかし、いつまでも下を向いてばかりはいられない。紘の言葉はそんな風に聞こえた。その視線が、頼星をそっと捉える。隣に腰かける硝子と高藤にも目で訴えられ、頼星はポツリポツリと喋り出した。



「俺、は……まだ、何も分かりません。だけど、音楽にはずっと関わっていたいです。それが、雪那の喜びでもあるから。」



 そう答えた頼星に、紘達はホッと息をつく。頼星は気丈だった。大の大人でも、こういう事態には取り乱すものだ。それがないということは──中学3年生の彼は、“自分の内面”と必死に対峙しているのだろう。
< 349 / 368 >

この作品をシェア

pagetop