空のギター
 突然、極端に低くなった雪那の声。頼星は恐怖で動けなくなった。いつまで経っても、この声に慣れることは出来ない。



「……いや、何も……」



 いつも、そう返すのがやっとだ。それはきっと、この先もずっと変わらない。頼星は、小さく息をついた。



「……分かればよろしい!無駄な発言はしないことだね。」



 すぐに雪那の声のトーンが、元に戻る。さっきまでの出来事は夢だったのかと思わされる程だ。

 ──だがこれは、紛れもなく現実に起こったこと。それは頼星自身が一番よく分かっていた。



「……ほんと怖いよな、それ。何年経っても慣れねぇっつーの。」



 言いながら、頼星は雪那の頭を小突く。雪那は“してやったり”という表情を浮かべた。



「慣れなくて良いよ。その方が面白いしね?」



 雪那はクスクス笑うと、頼星の頭を叩き返す。友達から“漫才コンビ”だと言われようが、この癖はお互いにもう直らないらしい。



「じゃあ、明日学校でね!」

「おう。遅刻すんなよ?」

「しないよ!私は無遅刻・無欠席・無早退だもん!!じゃあねー!!」



 いつもと同じようで、少しだけ違った学校帰り。夕暮れに染まる晩秋の街角。二人は三叉路で、互いに手を振って別れた。
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