空のギター
 それから三年後、漸く生計が立った二人は光夜を迎えに行こうとした。しかしその頃、丁度母親のお腹には新しい命、つまり綾子が居たのだ。入院することになった彼女は、息子を迎えに行く時は家族みんなでが良いと訴えた。彼もそれに賛成し、綾子が生まれてから三人で光夜を迎えに行こうと決めたのだった。



「綾子が生まれてすぐって訳にはいかなくて、二年経ってから……光夜が5歳の時に一度みんなで迎えに行ったの。
どんな風に育ってるんだろう、何が得意なんだろうって楽しみにしてた。一刻も早く会いたくてね。私、段差を踏み外しそうになるくらい急いでたみたい。」



 回線を通してクスクスと笑う声が耳に入る。光夜は頷き、「それからどうしたの?」と続きを促す。母親の目に彼の姿は映っていないのに。



「うん、それからね。やっとのことで園に着いて、園長先生に挨拶も済ませて、いよいよ光夜に会うことになったの。
いざ会うんだって思うと二人共足がすくんじゃってね……物陰から光夜の姿を見てたのよ。」



 一心不乱に砂場で遊んでいる光夜を、二人は飽きることなく眺めていたのだという。覚悟を決めた彼女が近付いて声をかけようとした、その時だった。
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