私の王様
「で?説明してもらおうか」

さっきまでの好青年な笑顔はどこへやら、不機嫌を隠そうともせず私を見下ろしている。

この猫かぶりにどうしてみんなずっと気づかないのかなぁ‥

いっそ感心しちゃうよ、ほんと。


「おい、聞いてんのかよ水嶋藤子」

「‥聞いてるわよ」

「じゃあさっさと答えろ。俺はお前の説明もなしに意味わかんねぇ頼み事をきいてやった。次はお前の番だろ?つーかまず頼む前に説明くらいしやがれ」

‥‥ごもっともです。

正論も正論だ。

彼が不機嫌なのも無理はない。

私のわがままで決まっていた見合いを大幅に狂わせ、それを穏便に手配してくれたのはこの男なのだ。

数年前、社長である私の父が主催したパーティーで、初めて会った。

うちの会社と付き合いの深い会社の社長の息子で、社長の代理で来たという彼は、何かと付き合いはあったが、親同士はともかく、歳が離れていることもあって,特に直接親しくしていたわけではない。

‥‥なぜかいっつも口ゲンカはするんだけどね。

それなのに、あんなわがままを聞いてくれたのだ。

私と見合いをしてくれ、だなんて。

本当だったら、彼のお見合い相手は‥‥


黙りこくった私に、彼が溜め息をつくのが聞こえた。

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