モテないオトコ
第七章:魔法使いからの卒業
 橘さんが俺の事を好き……

 嘘だ、この人は、俺をからかっているんだ。
 でも、橘さんは、そんな事をする人じゃない。

「本当ですよ……」

「どうして……?」

 そう、俺のどこを好きになる?
 俺は、何も好かれるような事をしていない。

「俺のどこを好きになれるんですか?」

 好きなんて言われたことがない。
 女の人は、みんな俺の事を嫌っていた。
 それが、当り前になっていた。

「私の料理を美味しいって言ってくれた」

 そんなの、世の中の誰もが言うだろう……

「そんな事で……」

「初めてだった……
 今まで、料理を作ってあげても何も言ってくれない人が殆どだった。
 だけど、貴方は違った。
 貴方は、美味しいって言ってくれた……」

 そんな事で好かれるのなら男は皆、苦労なんてしない。
 橘さんは、そう言うと体を密着させてきた。

 どうすればいいんだろう……
 俺は、橘さんの事が好きだ。
 だけど、橘さんも俺の事が好きだという。

 答えは、出ない。
 肝心な時に『迷い』が生まれてしまう。

 何度も何度も頭の中で、想像してきた事じゃないか……
 何度も何度も羨ましいと思っていた光景じゃないか……

 なのに、何故俺は、迷っているのだろう……

「忘れさせてください。
 あの人の事を……」

 心の中で、声が聞こえる。

  抱いちまえよ。

 俺は、橘さんの体を、力強く抱きしめた。

「好きです……
 貴方の事が……」

 嘘でもなんでも良かった。
 もう、全てがどうでもよくなった。
 俺達は、風呂場を出て体を拭くと、橘さんの部屋に向かった。
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