モテないオトコ
第五章:魔法使いの恋人候補
「俺とお前の会話なのだからお前さえ伝わればよし!」

 菊池は、そう言うと旨を張った。

「でも、使い方間違ってないか?」

「そうだっけ?」

 菊池が首を横にかしげた。

「笹山さんとは何にも無いよ。
 じゃ、待たせたら悪いからお先に失礼するね」

 俺は、そう言って上手く菊池の質問をスルーした。

 待たせたら悪いと思うのは本当。
 何にも無かったと言えば嘘になるかもしれない。
 キスだってしたし、ハグだってした。
 でも、返答次第では笹山さんに迷惑がかかると思った。

 あの時、笹山さんが欲しかったもの。
 それは、偽りの愛じゃない。
 ただの包容だったのだから……

 俺は、あの時心の中で何度も何度もそう呟いた。
 俺が会社の玄関に向かうと、既に笹山さんは立っていた。

「あ、遅かったやん。
 置いていかれたと思ったで……」

 少し寂しそうに笹山さんは言った。

「ごめん
 菊池にちょっと呼び止められてさ……」

「今日は、近くのサイゼリアでもええか?
 あれだったら、お酒でもいいけど……」

 笹山さんは、少し照れながら言った。

「昨日のが二連ちゃんは、ちょっと厳しいからサイゼリアにしよう」

「そ、そうか?
 じゃ、サイゼリアに行こう」

 なんだろう。
 笹山さんの様子がいつもと少し違う気がする。
 って、『いつも』がどんな人なのかは知らないけど……
 昨日とは明らかに違う……
< 87 / 131 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop