俺様上司は、極上の男!?
「なんで、ミサキガワに入った?」


また質問返しだ。

でも、課長の雰囲気がやはり緊張感を帯びているので、箸を止めて答える。


「小学生の頃、初めて買ってもらったちゃんとした運動靴がミサキガワのブランド『イカロス』だったからです。すごくかっこよくて、子どもたちはみんな憧れていました」


「そうか。俺もだ。これで、運動会は早く走れそうな気がしてさ。ワクワクした。近くに製造工場があるのを知ったのは高校に上がってからだったけど」


課長の瞳がかすかに揺らめいた。過ったのは思い出に対する郷愁?それだけだろうか。


「『イカロス』ももうないがな。そもそも、ネーミングセンスが壊滅的だったよな。墜落死したやつの名前なんてつけるか?」


茶化したいのか、わざと乱暴に言う課長。
彼の言う通り、私たちがはいていた『イカロス』シリーズの小児用運動靴はもう製造していない。何年も前に廃盤になった。
ミサキガワが手掛ける自社ブランドは、体育館用の内履きのみで、八王子の工場で作っている。

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