俺様上司は、極上の男!?
その時点で私は、ようやく今の状況に思い至る。

どうして、課長は待ち合わせ場所から渋谷駅に向かっていたのだろう。
私を迎えにくるため……ではない。
待ち合わせのバーだってまだ閉まる時間じゃない。

……つまり、課長は今、帰ろうとしていた。
そういうことだよね。


「遅くなってしまいすみませんでした。ご気分を悪くされましたか?」


私は泣きそうな気持ちで問う。
課長は怒ってしまったんだ。大事な待ち合わせだったのに、他の用事を優先した私を。
だから、待たずに帰ろうとしているんだ。

しかし、櫟課長はゆるゆると首を横に振った。
その瞳に、昨日の燃えるような情熱はなく、どこか諦めに似たムードが漂っていた。


「太刀川は悪くない。それは最初に言っておく」


「どういう……意味ですか?」


背筋が冷たくなる。
これから放たれるであろう一撃に、身が竦む。
彼が何を言おうとしているかが、すでに雰囲気で察せられた。


「太刀川、すまない。昨日言ったこと、忘れてほしい」


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