初めて会う従兄弟は俳優でした。



気づくと私は、
あの仮面男のことを

さん付けで呼んで
敬語で話して


そうじゃないと
どうしても口を開けなかった。






どうしたものか。
理由がわからない。



きもい
あほ
バカ
死ね


と言いたいことはたくさんあるのに



気持ち悪いですね
頭壊れてますね
バカにもほどがあります
この世から消えてください



どうしても、言い方が敬語になってもっと棘のある言葉になってしまう。


......おかしい。



本当は仲良くしたいし、従兄弟同士やっぱり笑い合いたい。




......だけどやっぱりそれは無理だなと思う。

彼はとても私に対して偉そうだ。
口が悪いし
からかうし



だから私だって対等にやり返してやりたいのに.......

なのにどうしてあんなに弱々しく敬語になってしまうんだろう。


これは、里美に聞くしかない。




ひいおじいちゃんの七回忌も終盤になり




『憧れ』


だった



彼とお別れが迫る中、私は猛スピードでメールを打つ。



もちろん彼に見えないように。



『里美たすけろ。山崎龍斗似のイケメン従兄弟が私に話しかけてくる!』



さすがに山崎龍斗だというのは、個人情報のこともありふせる。


『はぁ?んなの、従兄弟なんだから、恋心とか抱くわけ?』


今日は里美のバイトもない日。

私はついていると確信し、スマホ画面に指を素早く動かして文字を打つ。



『違う!!!!恋とかじゃない!仮面男なの!全然きゅんとこない!』


『......よくわかんないけど、性格は山崎くんみたいに爽やかじゃないのね?だったらいいじゃない』


『いや!偽笑顔は爽やかだった!!!!
そんなことどうでもいいの!!
その仮面男とうまく話せないいいい』



ぎゃはははっははっ!


大きな笑い声がして
びくりと体を震わせる。

酔い潰れる親戚のおじさんに
トークが盛り上がるお母さんがた。


の中心で、偽爽やか笑顔を放つ彼。


ブブっと着信音が鳴り私は慌てて彼から目を逸らした。




『うまく話せないって?それは、かっこいいからつい緊張しちゃうとかではなく?』


私は必死にメールを打つ。

彼がこっちを見ていないかヒヤヒヤしながら

(見ていても何の疑いはないはずだけど...)



『ちがう!緊張とか一切ないの!すごいうざいの!なんか、死ねとか暴言吐きたいの!でも、いざ口に出すと敬語になるのー』



泣きスタンプを連打した私は、ぎゅっとスマホを握りしめる。




私どうしてこんなこと相談しているんだろう。



そもそも、あんなに大好きな俳優なのに
会いたくて会いたくて仕方なかった彼なのに
全然、浮かれないし
全然、ドキドキしない。



彼の性格があんな悪魔だから?

最低な奴だから?



そんなに最低な奴?



よく分からない。

だけど、彼が口に出す言葉全部

うざく聞こえて、

俳優の山崎龍斗から遠ざかっていって



.......見た目は同じなのに全く違う。





< 7 / 34 >

この作品をシェア

pagetop