腹黒王子の取扱説明書
俊って私にとって疫病神じゃない?あの王子みたいな端整な顔に騙されてはいけない。

「ちゃっかりしてるわね。今日もしっかり稼ぎなさいな。ほら、お客さまが見えたわよ。そんなに現実が好きなら、お客を見てお金と思うのね」

叔母がそう私に告げながら入り口の方に目をやり、お客に向かって妖艶に微笑む。

最初のお客は四十代のメガネをかけた小太りの中年男性と、その部下らしい三十代のスラッと背の高い男性。

「ジュピターの部長さんよ。行ってきなさい」

フッと微笑して私の背中を押す叔母は、どこか企み顔だ。

ジュピターはうちの会社と同じ大手電気機器メーカー。

最近は家電の売上が好調で、うちの店を接待でよく使ってくれる。

そう言えば、園田さんもジュピターって言ってたな。

名刺をもらわなかったから詳しい役職は知らないけど、園田さんと私の会話にはなんというかちょっとした信頼関係があるし肩書きなんて必要ない。

このお客さんもそうだといいけど。

さあ、仕事だ。
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