腹黒王子の取扱説明書
私は作り笑いをしてお客さんに近づく。

うちの人気ホステスのマリさんが一緒だったから、私がつくのはてっきり若い男性の方と思っていたのに、マリさんはさっさと若い男性の隣に座った。

仕方なくメガネの男性の横に座る。

「初めて見る子だね?名前は?」

ニヤニヤしながらメガネの男性が聞いてくるが、口臭がかなり臭い。

ハンカチで鼻を押さえたいのを我慢したけど、いつまで笑顔でいられるだろう。

口臭もそうだけど、こういうタイプは生理的に受け付けない。

「ナナです。よろしくお願いします」

にっこり笑うが顔がひきつる。

「可愛いね。私は…ジュピターの開発部の部長をやってるんだ」

口臭男が胸ポケットから名刺を取り出して自慢気に私に差し出す。

私はちょっとためらいながらその名刺を受け取った。

「ジュピターの部長さんなんて、井澤さんはすごいんですね」

高めの声を出して相手を持ち上げる。

「ナナちゃんの名刺はないの?」
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