腹黒王子の取扱説明書
「大丈夫か?」

コピー用紙の入った箱を片手で持ち直し、寺沢君が私の肩に軽く手をかける。

「うん、大丈夫。……ありがと」

「総務の仕事の引き継ぎの方は俺が何とかするからさ。何かあれば相談に乗るし」

寺沢君が優しく笑ってみせる。

「うん」

「でも……どうして突然、お前が専務の秘書になったんだろうな?」

「……どうしてだろうね」

私は言葉を濁す。

ホステスのバイトがバレて脅されたとはとても言えない。

「お前……ひょっとして専務と付き合ってるのか?」

寺沢君が私の瞳を覗き込む。

「まさか。あの専務だよ。私と付き合うわけないじゃない」

私は慌てて否定する。

あんな腹黒王子、頼まれたって嫌だ。

「中山……」

寺沢君がいつになく真剣な表情になり、私の肩に置かれた手に力がこもる。
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