腹黒王子の取扱説明書
「もし兄が原因なら私に言いなさいよ。父に頼んでまた海外に飛んでもらうわ。娘には甘いの」

「うん。心強い」

作り笑いをしながら私は杏子に向かって頷くと、医務室に向かった。

医務室のドアをノックすると、先生の返事が聞こえたのでそっと中に入る。

「やあ。中山さんだっけ?その後調子はどう?」

私の顔を見て前田先生が柔らかな笑みを浮かべる。

「……熱は下がったんですけど……」

泣き顔他の人に見られたくなくて逃げてきたとは言えない。

でも、彼は私の顔を見て察したのか、先生の椅子の横の椅子に座るよう促した。

「ちょっと座って待っててくれる?」

そう言って前田先生は、奥の流しに消えた。

この先生になってから医務室の雰囲気が変わったような気がする。

何となくだけど……温かい。
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