腹黒王子の取扱説明書
「大丈夫。ちょっと寝不足なだけ」

作り笑いをして自席に座りパソコンを立ち上げる。

いつもならパソコンが起動するまでの間、机の上の書類を片付けたりして慌ただしく手を動かしているのに、今日は魂が抜けてしまったかのようになんだか力が出ない。

「ボーッとしてるわよ。本当に大丈夫?辛くなったら言うのよ」

優しい言葉をかけながら、杏子が私の机の上に花柄のマグカップを置く。

桃の甘い匂いがする。

どうやらピーチティーを入れてくれたらしい。

「ありがとう」

杏子にお礼を言いながら、マグカップを持ち口に運ぶ。

パソコンでメールをチェックすると、俊からメールが来ていた。気づかなかったけど彼は携帯のアドレスにもメールを送ってくれたらしい。

【十時フレックス。まだ喉が痛い。あの大根おろしのまた作って。】

たったこれだけの文章なのに、何故か涙が込み上げてくる。

とりあえず、譲歩してフレックスにはしてくれたようだ。
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