腹黒王子の取扱説明書
当初入っていた予定をずらして、メールを処理していると、スーツのポケットに入れておいた携帯がブルブルと震えた。

今度も海里からの着信。

やっぱり出ることが出来なくて、すぐにポケットに戻す。

せっかく父の事を頭から追い出していたのに……。

すぐに病院に行かなきゃいけないのはわかってる。

でも、今日は大事な来客もあるし……仕事が終わってからだ。

あの父があっさり死ぬわけない。

そう自分に言い訳して父に会うのを先延ばしにする。

杏子と一緒に特別応接室に行きジュピター社長来訪の準備を済ませると、俊が出社してきた。

時間は九時五十分。

余裕もって十時前に来るとこは、本当に優等生だと思う。

やはり外面だけはいいのだ、この人は。

私が専務室に入ると、俊はすでに椅子に座っていてパソコンを立ち上げていた。

「おはよう。医務室には寄ってきたから」

俊が私に向かってにっこり微笑む。

素直に私の言うこときいたのはいいけど、この笑顔が曲者だ。
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