腹黒王子の取扱説明書
自分が憎んでいる相手が、こんな痛々しい姿になったら……。

会うことを拒否して、麗奈のように仕事に没頭していたかもしれない。

だが、もう目の前の憎むべき相手に残された時間は少ない。

俺の母が危篤で目の前にいたとしたら……。

最後に会って何を言う?

優しい言葉なんてかけられない。

自分を捨てたことを冷たく責めたかもしれない。

「恨み言でも何でもいい。何か一言でも声をかけたら?もうこれがきっと最後だよ」

「……わかってます」

俺の言葉に何かを決意したように、麗奈がじっと彼女の父親の方に目をやる。

彼女は一歩一歩ゆっくり父親に近づき、躊躇いながら父親の手にそっと触れる。

「…海里の事は心配いらないから」

麗奈にしては淡々とした口調だった。

でも、きっと……これが今の彼女に出来る精一杯の事だったのかもしれない。

麗奈の声を聞いて安心したのか、彼女の父親は静かに息を引き取った。
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