腹黒王子の取扱説明書
でも、応接セットの椅子にもソファーにも誰も座っていない。

応接室の中に入ってキョロキョロ当たりを見渡すと、応接室のドアの隅にあの男がいた。

「やあ、ナナちゃん」

忘れもしない気持ち悪いあの男の声。

井澤がニヤリと不気味な笑みを浮かべる。

……やられた。

受付の鈴木さんにはめられた!

このスケベ男が三条物産の常務ではないことくらい彼女は知ってたはずだ。

この前、彼女は井澤が私にしつこく付きまとうのを見ていたのだから……。

杏子が秘書室にいないのを知った上で、鈴木さんは杏子に内線した。

私が内線に出る確率は五割。

でも、美月ちゃんが出たとしても、彼女は何か理由をつけて私を応接室に行かせたはずだ。

特別応接室に通したのも、重要来客だと私に信じ込ませるため。

ショックだった。
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