腹黒王子の取扱説明書
同僚にここまで意地悪されるなんて……。

「今日は社長に呼ばれて来たんだよ。接待みたいでね。でも、食事の前におやつを食べるのも悪くない」

井澤の目がギラギラ光る。

蛇のような目でなめ回すように見られて、怖くて身体が一気に冷たくなった。

社長に呼ばれた?

でも、杏子は一言もそんな事言ってなかった。

井澤が来るなら私に知らせてくれるはずだ。

どうして……?

井澤が私の方に一歩一歩近づく。

逃げようとしても金縛りにあったかのように身体が硬直して足が動かない。

「あっ……あ……」

声までが私の意思に逆らう。

この肝心な時に……どうして声が出ないの!

井澤が私に近づき私の髪に触れた。

嫌だ、気持ち悪い!

「受付の子、いい同僚だね。社長と会食の約束があるって言ったら、ここに通してくれたよ。社長はまだ打合せ中ですのでここでお待ち下さいってね。いつもと違って豪華な部屋だし、社長の打合せが終わるまで楽しもうか」
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