腹黒王子の取扱説明書
麗奈に触れているのに冷静でいられるか!

「さあ。自信ないね」

井澤をギロッと睨み付けながら俺は冷ややかに言うと、すたすたと井澤の元まで歩いて奴の首根っこを掴む。

「……長谷部……専務……これは……その……」

井澤が慌てふためきながら素っ頓狂な声を上げる。

奴の顔は見ていて滑稽だった。

まあ、海外出張中のはずの人間がここにいるんだ。驚きもするだろう。

俺が日本に帰国したのは今日の午後。当初の予定より二日早く自分の仕事を切り上げ、交渉部分は須崎一任して帰ってきた。

俺が同席しなくても須崎なら一人でやれるだろう。

須崎は須崎ですぐには帰れない事情が出来た。

あいつにとっては俺の命令は好都合だっただろう。

麗奈は俺の帰国の事は知らない。

俺は伝えようとしたが、杏子が反対した。

「内緒にして突然現れた方がドラマティックだわ」とかなんとか笑いながら言って。

彼女は俺の恋愛を面白がっているふしがあるが、まあいい。
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