腹黒王子の取扱説明書
だが、実際に殴って自分の人生を台無しにしてはそれこそ社会的信用を失う。

長谷部の将来を背負う俺には許されない行為だ。

殴り倒したいのをグッと堪え、怒りをたぎらせた目で井澤を睨み付ける。

奴はそんな俺を見て恐怖でおののいていた。

「まずはその汚い手を離せ」

首根っこを掴んだ手をボールを床に投げつけるように離すと、井澤はそのまま床に倒れ込む。

少々言葉が乱暴になったが気にしてはいられない。

手を床について井澤が上体を起こす。

このまま頭を下げたら土下座になるな。

土下座くらいでは俺の気が収まらないが……。

「ち、違う!誤解だ!この女が誘ってきたんだ!」

井澤が必死に反論する。

往生際の悪い男だ。

「お前、鏡を見たことがあるか?お前のような小太りの中年男を誰が誘うか!俺がいるのに婚約者がお前を誘う訳がない。それとも、俺の容姿はお前に劣るのか?」

一言一句はっきり冷酷に告げて目を細めて井澤を見る。
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