腹黒王子の取扱説明書
「それは……」

井澤が狼狽えながら俺から視線を逸らす。

だが、俺にここまで言われて相当悔しかったのか唇を噛み締めた。

「もし、今日無事に家に帰れたら、転職先でも探すんだな。お前のところの社長もこの件は知ってるし、言い逃れは出来ない」

冷ややかに言って井澤を見据えると、近くでずっと硬直したままだった麗奈の手を掴み、自分の胸の中に誘う。

いつもは抵抗するはずの彼女がすんなり俺に従いぎゅっと俺のスーツを掴む。

彼女は震えていた。

ずっと怖くてたまらなかっただろう。

早く連れ出さないとまずいな。

「麗奈、もう大丈夫だ」

麗奈をギュッと抱き締めると、彼女の綺麗な髪を撫でながら優しく声をかける。

井澤は亮に任せて、麗奈を早く落ち着ける場所に連れて行くか。

「亮、とりあえず警備員を呼んで引き渡して」

「了解。でも、お前……その毒舌すごいな。俺が呆然としたよ」

側で静観していた亮が苦笑する。
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