腹黒王子の取扱説明書
伝わるその感触、その温もり……。

安心したのは麗奈だけじゃない。

俺も麗奈にやっと触れられてホッとした。

「俺もずっと会いたかった」

強く麗奈の身体を抱き締める。

「……いつ戻って来たの?」

「今日の午後。やっぱり麗奈が心配で須崎を置いて帰ってきた」

「須崎さんかわいそう」

泣いて目を真っ赤にした麗奈が顔を上げてクスッと笑う。

「そうでもないよ。須崎は今頃楽しんでるだろうな」

「え?どういう事?」

「須崎の話なんてどうでもいい。今は俺の事だけ考える」

「……すでに考えてますけど」

ちょっと声のトーンが落ちた麗奈の頬に手をやる。

「まだまだ足りない。もっと俺に夢中になってよ」

麗奈の瞳を見つめながら言うと、彼女は半ばやけになったかのように語気を強めて言い放った。

「もう夢中になってます!」

彼女の告白にその場の空気が一瞬固まった。
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