腹黒王子の取扱説明書
そんな風にしか思えない私は……冷たい人間なのかもしれない。

父の見舞いだって、仕事を理由に二回しか行っていない。

父の顔を見たくないのだ。

血の繋がっている娘なのに……私は父の姿を見ても涙一つ流さなかった。

ひどい娘だって自分でも思う。

こんな私は……幸せになる資格なんかない。

私が幸せを望んだところで、幸せにはなれないだろう。

このまま落ちるとこまで落ちる……それが私の運命なのかも。

でも、弟だけは幸せになってもらいたい。

弟の海里は、とても優しいし、頭もいい。

無事に大学を卒業して、自分の人生を歩んで欲しい。

「私の分も幸せになって……」

それだけが私の願い。もう、他には何も望まない。

海里が幸せならそれでいい。

涙が溢れて頬をつたる。

何かが私の涙を優しく拭った。

ああ……今、私は夢の中にいるんだ。
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