腹黒王子の取扱説明書
ふとベッドの上にあった時計を見ると、朝の六時過ぎ。

私はこれから家に帰って、シャワーを浴びて着替えなければならない。

ここがどこだかわからないけど……ぐずぐずしている暇はない。

専務が部屋を出て行きそうにないし、恥ずかしいけどこのままベッドから起き上がるしかない。

お札が落ちているシーツにくるまるという選択肢は私にはなかった。

貪欲な女だってこれ以上思われたくはない。

専務から視線を逸らし、私はサッとベッドから出るとハンガーにかけてあるドレスをつかんで素早く着替えた。

ずっと専務の視線は感じていたけど、毅然としていた。

ここで狼狽えていてはいけない。

余計に漬け込まれる。

「これは君のバッグだ」

専務が私に向かって黒の通勤バッグを投げる。

何とかバッグを受けとると、彼は冷ややかに言った。
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