腹黒王子の取扱説明書
「そんな暇人じゃないよ。彼女、頼む」

俺はこの無意味な会話を終わらせたくて、医務室のドアに手をかけた。

「家までちゃんと送れよ。一人じゃ帰れないぞ」

「……何とかする」

医務室を出てエレベーターで二十五階に上がると、俺は専務室に戻った。

中に入ると、ソファーに腰かけていた総務部長が立ち上がる。

部屋の隅にいた須崎が俺に目配せした。

そう言えば、呼んどけって頼んだな……。

「待たせてすまない」

俺は総務部長に声をかける。

千田総務部長。

役員の間での別名は宴会係。

ハゲでデブのおやじ。

重役連中に媚びへつらって昨年総務部長に昇進したらしいが、たいした仕事もしてないし、来期の人事では降格だな。

「長谷部専務、あのう、私はどうして呼ばれたんでしょうか?」
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