腹黒王子の取扱説明書
無能なくせに、気になるのは出世か。

馬鹿な男だ。

俺はにっこり笑って見せると、デスクに積まれた書類に目をやり、千田部長を視界から消す。

「まずは部下の心配でしょう?戻っていいですよ」

これ以上千田部長の顔は見たくない。

「長谷部専務……」

俺に近づく千田部長の腕を須崎がつかんで、冷ややかに告げる。

「専務の話は終わりましたよ。部下の様子を見に行っては?」

須崎に眼光に怯んだ千田部長は、おずおずと部屋を出ていった。

「須崎、秘書室にまだ長谷部さんがいたらここに呼んで」

「ヘイヘイ」

須崎が俺の顔を見てニヤリとしたが、俺はそ知らぬ顔をした。

こいつも亮と同じで知りたいのだろう。

どうして俺がわざわざ中山麗奈を医務室に運んだのか。

だが、俺にも明確な答えはわからない。

ただ、放っておけなかった。
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