腹黒王子の取扱説明書
気づけば身体が自然に動いていた。

ふと腕時計を見れば十二時二十分。

杏子はランチで席を外しているだろうか?

妹なのに杏子とはあまり親しくない。

腹違いの妹だから……それが最大の理由かもしれない。

須崎を通して妹を呼び出す。

それが、俺と杏子との距離と言える。

お互い携帯のメールアドレスを知っていても、それを使うことはない。

ノックの音がして俺が返事をすると、杏子が部屋に入ってきた。

その眼はだいたい想像がつくが何か言いたげだ。

「医務室に総務の中山さんがいる。熱があって今は動けないから、何か食べる物を買って医務室に届けてくれないか?」

中山麗奈には杏子に近づくなって言ったが、今は仕方がない。

「秘書室ですごい騒ぎになってるわよ。王子様が女の子お姫様抱っこしてたってね」

杏子の目がキラリと光る。

ここにも、知りたがりがいた。
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