腹黒王子の取扱説明書
「兄さんにしては珍しいわね。いつもにっこり笑ってるだけで、困っている女の子が側にいても放っておくのに」

杏子の言葉が刺々しい。

だが、俺はいつものように微笑んでかわした。

「目の前で人が倒れたら、誰だって助けるよ」

「そうかしら?」

杏子は疑わしげな視線を投げる。

「気に入ったんじゃない、麗奈のこと?」

杏子の質問を俺は無視した。

「彼女は一人暮らしか?」

「会社の寮で一人暮らしだけど」

俺の唐突な質問に杏子は目を細める。

「……杏子のところに二~三日、彼女を泊めてみてやってくれないか?」

「それは無理ね。兄さんの家と違ってうちは狭いし、ベッドも一つしかない。兄さんが責任をもって世話すべきじゃない?」

杏子は意地悪な笑みを浮かべる。

こいつ……俺が困るのを見て楽しむつもりか……。

頭は切れるが質の悪い妹。
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