腹黒王子の取扱説明書
「一人で帰れないし、食事だって大変でしょう?」

「だからって専務のお世話になるのはおかしいよ。一人で自分の家に帰る」

「強情ね。素直に世話になった方が楽なのに。兄の家ってペントハウスらしいし、一度行って損はないと思うわよ。それに、兄に逆らえるかしら?」

……杏子は面白がって私と専務をくっつけたがってる。

もうすでにお邪魔したなんて口が裂けても言えない。

しかも、泊まったなんて言ったら……。

事の次第を全部白状させられそうだ。

杏子が意味ありげな視線を投げるが、私は混乱していた。

専務が私の看病ってあり得ないでしょう?

あのバイトの事バレて専務には嫌われてるし……。

「あいつは獲物に逃げられたことがないから、逃げたら余計に追うと思うがな」

先生が楽しげに笑って恐ろしい事を口にする。

……ここには誰も私の味方はいないの?

これ以上専務の事を考えたくなくて、私は話題を変えた。

「二人は知り合いなの?」

「ああ、紹介してないのね?前田先輩は、高校時代まで兄と同じバスケ部ですごくモテたのよ。先輩は、いつからうちに?」

杏子がチラリと先生に目を向ける。
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