腹黒王子の取扱説明書
「先輩が学会発表でアメリカに行っていてな、俺が来週まで代理を務めることになった。だが、俺が恋しくなったらいつでも桜花医大に来てくれ」

先生がとびきりの笑顔を見せる。

「相変わらずですね。そう言う優しい言葉をかけて女の子騙してるんじゃないですか?もう二股とかしてませんよね?」

杏子がギロッと先生を睨み付ける。

「ははっ。杏子ちゃんは相変わらずきついね」

先生は苦笑して誤魔化した。

ハンサムだし、お医者様だし、きっと女の方から寄ってくるのだろう。

「独身貴族謳歌しすぎて、そのまま淋しいおじいちゃんにならないでくださいね。あっ、もう私は行かないと」

杏子が壁にかかった時計に目をやった。

「一時三十分に来客があるの。おじいちゃんばっかだけどね。羊羮でも出そうかしら?飲み物もここに置いておくから、適当に飲んで」

杏子がフッと微笑しながら、ベッドの側にあった椅子の上にビニール袋を置く。
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