✿蝣✿
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ーーざわざわと騒がしい教室。
指先が凍るような寒さの冬でも、教室の中というのは人の熱気で暖かいものだ。
女子数人が教卓を囲み、また誰かの悪口で盛り上がっている。
沢山の笑い声が行き交う、賑やかな空間。
その、一番最後列の窓際の席。
机の上には、白いシンプルな花瓶に挿された黄、白、紫の菊の花。
「……蝣が死んで、3ヶ月か……」
ある女子生徒が、ポツリと呟いた。
その声は大した音量ではなかったが、室内の喧騒を貫き、響き渡る。
蝣。
その名を彼女が口にした途端、数人の生徒が眉を潜め、怯えたような表情を見せた。
「おい……アイツの話はしない約束だろ」
「だけど……」
「やめてくれよ、もう!」
声を荒げたのは、新田という男子生徒だ。
頭を掻き毟り、溜め息を漏らす。
「……ごめん」
それきり、誰も何も言わなかった。
やがて、次第に教室は騒がしさを取り戻す。
蝣。
3ヶ月前まで、このクラスの一員として存在していた生徒。
彼はこの学級とその生徒を、深く恨んでいた。
そして3ヶ月前、蝣はこのクラスを、地獄に突き落としたのだ。