記憶堂書店
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修也の家を早々に引き上げた龍臣は、その足で記憶堂へやってきた。
本日は休みにしてあったが、休みの札はそのままに、龍臣はひとり店に入る。
そして、本棚の間に落ちていた本を拾い上げた。
革表紙の記憶の本だ。
その表紙を撫でた。
この本の持ち主は間違いなく夏代である。今回は強く確証が持てていた。
「本が落ちたの?」
あずみが眠そうな声で二階から降りてきた。日差しは出ているが、時間的には夕方だ。
いつも通りの時間だが、龍臣にはあずみの姿が薄らと見えている。目を擦りながら、龍臣のいる本棚へと歩いてきた。
「本が落ちたことに気が付かないなんて、あずみにしては珍しいな」
あずみは大抵、どんな時間でさえ本が落ちるとわかるらしい。しかし今回は気が付かなかった様子だ。
「なんかぐっすり寝ていたみたい。こんなの久しぶりだわ」
どこかすっきりしたような顔で微笑む。
「そうか」とだけ相槌をうち、あずみを観察してみるがこれといって大きく変わったところはない。
あずみの姿が龍臣に見えるくらいだ。こればっかりはどうしてなのか、龍臣にもあずみにもわからない。
「また本を求めて誰かが来るのね」
「この本は修也のお祖母さんの記憶の本だ」
「そうなの?」
あずみは驚いたように龍臣を見た。
「修ちゃんにはこのこと言った?」
「言うわけないだろう。修也の両親については、修也の祖父母が話すと言っていた。だからもう僕からは何も言わないと決めたんだ。あずみも余計なことは言うなよ?」
やんわりと諭すとつまらなそうな顔を見せたが「はぁい」と素直に了承した。
今日はあずみの精神も落ち着いているようだ。
龍臣は少しホッとした。
「あずみは一週間、どうしていたんだ?」
ふと思ってそう聞いた。
あずみが出てこなかった一週間、彼女の気配はこの記憶堂になかった。
いや、龍臣が気が付かなかっただけかもしれないが、もし眠っていたとしても一週間も眠りっぱなしというのは初めてだ。
出てこなかった間、どんな様子だったのか気になった。
すると、あずみはコクンと首を傾げた。
「一週間?」
龍臣の言葉の意味が分からないというように、不思議そうな顔をする。
「あぁ。君は一週間、僕の前に現れなかったんだよ。覚えていないのか?」
「そう……だったかしら。なんだかそこら辺の記憶が曖昧だわ。龍臣と喧嘩して、二階へ戻って……。悲しくて悲しくて泣いていたら龍臣が二階へ来たのよ?」
二階へ行ったのは一週間たったあの日だけだ。
つまり、あずみの記憶では一週間飛んでいるということか。