記憶堂書店
あずみは龍臣の腕に手を絡ませながら小さい子供がねだるよな仕草で身体をくねらせた。
「別に話さないとは言っていないよ。いつかは約束通り、この記憶の本での話をしに行く。でも今はまだ夏代さんの負担が大きい気がするんだ。また苦しそうに泣いてしまうだろうし、僕が話すことでまた自分を責める日が続いてしまうかもしれない。タイミングを見ないと」
「それはそうだけど……」
「あずみ、全てがあずみのそうにストレートに話していいことばかりではないんだよ。素直にありのままを話すことで、余計に相手を傷つけてしまうことだってある。人間は意外と繊細だ。あずみだってそうだろう?」
優しく諭されると、あずみは小さく頷いた。その様子に龍臣は微笑む。
薄く透けているその姿は頼りなげで、庇護欲が駆り立てられる。
その頬をそっと形に添って撫でると、あずみはくすぐったそうにふふっと笑った。
生身の人間ほど感触はない。でも、薄く透けるその皮膚は微かに感触があった。
なぜあずみは生きていないのだろう。
あずみの姿が見えるようになって以来、龍臣は何度そう思ったことだろう。
龍臣にとって、あずみは今まで姿が見えなかったからどこか線引きを引くことができていた。超えたくなるその線は、姿が見えないということでギリギリ保たれていたように思う。
それなのに、姿が見えるようになってしまうとその線がぶれてしまうような気がしていた。
龍臣にとってあずみは意識しなければ幽霊だ思うことが少ない。
あずみはごく自然にそこにいて、当たり前のように話をする。
幽霊だからと恐怖を感じることもなく、修也や家族と同じように人間として普通に接しているのだ。
だからこそ、この半透明な姿が辛くもある。
そして、あずみが幽霊だと突きつけられているように感じるのだ。
幽霊なんかでなければいいのに。
そう思ったところでどうしようもない。
わかっている。
いくら何を思い、感じたところでどうしようもないのだ。
それが、切なくて苦しかった。