記憶堂書店
起きて来た気配は感じていたから驚きはしなかった。しかし、そんな簡単に言われてもと少しだけ思う。
そんなあずみをチラッと見て、龍臣はため息をついた。
「お前が思っているほど生易しい話ではなくなるぞ」
「ある程度最悪な話は予想している。まぁ、現実はそれを上回りそうだけど」
修也は肩をすくめてそう言った。口では軽いことを言っているけど、目が真剣だ。
あぁ、まるで何か決めた花江の瞳に似ているなとも思った。
「知ったらお前は確実に深く傷つく」
「うん」
「源助さん達とも気まずくなるかも」
「そうかもね。でも隠し事されている今も、俺からしたら気まずいよ」
「お前は泣きわめくかも」
「泣いたらスッキリするかもよ」
「引きこもりになるかも」
「そこは大丈夫だと思う。ていうか、何? 話したくないの?」
回りくどい龍臣の様子に、ついに焦れた修也が頬を膨らませてぷんぷんしながらカウンターに詰め寄った。
しかし龍臣は修也を真っ直ぐ見つめる。
「お前は僕にとって弟のようなもんなんだよ。傷つくところを見たくないって言うのは当たり前だろう!」
龍臣がはっきりそう言うと、修也が目を丸くした。
「なんだよ」
「いや……、そんな風に思っていてくれるなんて思いもしなかったから」
といって、急に照れたようにへへっと笑った。
そんな反応されると、龍臣も恥ずかしくなる。
二人で妙に照れていると、あずみは冷めたような視線を寄越してきた。
「なんなの二人して気持ち悪い。とにかく、修ちゃんは聞きたがっているんだから今こそ話すべきよ」
あずみは言いながら朗らかに笑う。その笑顔に後押しされたように、龍臣も頷いた。
「そうだな。夏代さんとの約束もそろそろ守らないと。今度の日曜にお前の家に行くよ。源助さんと夏代さんにも話がある。その時に話すでいいかな」
「わかった」
修也はしっかりと覚悟をした瞳で頷いた。